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神戸地方裁判所 昭和31年(行モ)4号 決定 1956年10月11日

申立人 兵庫県地方労働委員会

被申立人 加古川精神病院

主文

被申立人に対し、原告加古川精神病院被告兵庫県地方労働委員会間の当庁昭和三一年(行)第二一号地方労働委員会命令取消請求事件の判決確定に至るまで申立人が昭和三十一年四月十八日被申立人に対してなした命令に従うことを命ずる。

申立費用は被申立人の負担とする。

理由

申立人は主文同旨の決定を求め、その申立理由として主張する事実の要旨は、

「申立外高松正三はもと被申立人加古川精神病院に雇用されていた看護人で被申立人病院の従業員をもつて組織する加古川精神病院労働組合の役員であるが、昭和三十一年四月十八日看護人としての適格を欠くとの理由で被申立人から懲戒解雇の申渡を受けた。これに対し右労働組合は右高松正三の解雇は労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為であるとして同年四月二十五日申立人委員会に対し救済の申立をなしたところ、申立人委員会は右申立を認容し、同年七月十日「被申立人病院は昭和三十一年四月十八日高松正三に対してなした解雇を取消し原職に復帰せしめ且右解雇の日より原職復帰に至る迄の間同人が受ける筈であつた賃金その他諸給与を支給せよ。」との命令を発し命令書の写を被申立人病院及び申立人労働組合に交付した。被申立人病院は右救済命令を不服として同年八月二十三日神戸地方裁判所に申立人委員会を被告として右命令の取消を求める行政訴訟(同庁昭和三一年(行)第二一号)を提起し、その訴状は同年九月四日申立人委員会に送達されたのであるが、被申立人病院は前記救済命令交付後現在に至るもこれを履行しないので、申立人委員会は、同年九月十一日第百九十五回公益委員会議においてなした労働組合法第二十七条第七項の規定による緊急命令の申立をなす旨の決定に基き本申立に及んだ。」というのである。

よつて判断するに、労働組合法第二十七条第七項の緊急命令は、同条第四項の救済命令に対する取消訴訟の繋属中使用者が救済命令を任意に履行しないことによる労働者の経済的困窮を除去し且その間において予想される団結権の侵害を防止することを主たる目的として使用者に対し過料の制裁によつて救済命令を強制しようとするものであるところ、本件訴状によれば、被申立人病院は右救済命令発布の法律上の根拠なきことを主張するものであつて、従つて現在に至るまでこれを任意に履行せず且これを履行する意思が全くないことが認められる一方、右高松正三が被申立人病院から懲戒解雇されて後に他に就職し相当の収入を得ている如き特段の事実を認定すべき資料は全くなく、且前記訴訟の審理には相当の日時を要すべきことが予想される本件においては、その間前記高松正三がこうむるべき経済上の困難を除去するために、労働組合法第二十七条第七項の緊急命令を発するのが相当であるといわなければならぬ。よつて申立費用について民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 河野春吉 石松竹雄 後藤勇)

【参考資料】

命令書

申立人 加古川精神病院労働組合

被申立人 加古川精神病院

右当事者間の昭和三十一年(不)第四号不当労働行為救済申立事件につき、当委員会は昭和三十一年七月十日公益委員平佐三郎、原田脩一、黒田敬之、瓜谷篤治出席の上遂げたる合議の結果に基き、次の通り命令する。

主文

被申立人は昭和三十一年四月十八日高松正三に対し為したる解雇を取消し、原職に復帰せしめ、且つ右解雇の日より原職復帰に至る迄の間の同人が受ける筈であつた賃金その他諸給与を支給せよ。

申立人その他の申立を棄却する。

理  由<省略>

昭和三十一年七月十日

兵庫県地方労働委員会 会長 平佐三郎

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